僕たちのクラスは仲がいい。
喧嘩とかいじめとか、そういったものが一切ない、5年2組は平和だ。
みんながそう思ってる。
だからね、そういったものを作り出す人は悪者で、僕たちの敵なんだ。
あれは今日から数えると……えっと……10日前。
そうそう、ちょうど夏休みが終わって1週間が経ったころの、まだまだ暑かった日だよ。
僕たち男子は、クラスの女子にこの町に伝わる怪談話を話してあげてたんだ。
初めのうちは、まぁおもしろがって聞いていたよ。
でも……どうやら、その女子たちはその話を本気では信じていなかったみたいなんだ。
その女子たちのリーダー格が言うには、そんなことが現代文明において実際に起こるわけがない、だって。
必死に"怪談"を弁護する僕たちに、彼女は最後に一言いった。
「幼稚」
だから僕たちは、彼女に"怪談"の実在を証明することにした。
その夜、僕たちは近所の墓場に集合した。リーダー格も含めて。
彼女は、初めは取り合ってもくれなかったんだけど、
「本当は怖いだけなんじゃないの?」
という決まり文句の挑発にのって、結局は証明に付き合ってくれた。
ここの墓場は、ほとんど森の中にあるんだ。
だから……5分も奥に進んでいくと、外からの音も光も入ってこなくなる。
それはつまり、逆でもそういうことなんだけどね。
僕たちはリーダー格を怖がらせるために、色々な準備をした。
つまり古典的な光の人魂から、『幽霊の声』と称するCDまで。
でも、どれにも彼女は怖がりも驚きもせず、もっと酷いことに気にもしなかった。
せっかく可愛い顔をしているんだから、素直に感情表現すればいいのに。
(もうハッタリは通用しない)
そう思った僕たちは、最後の手段で証明することにしたんだ。
目線がリレーされて、一人が僕に近寄ってきた。
がしゃり、と僕の掌に冷たく重い感覚が伝わったときには、揺るぎない自信に満ちていたのを覚えてる。
墓場の奥、森の中心に着いたのは、もう15分くらい経ったころだった。
もう気がすんだ?と腕を組みながら聞いてきたリーダー格の表情には、僕たちにもはっきりと分かる嘲りの表情があったんだ。
僕たちが「最後に一つだけ」と言うと、怪訝な顔をして手を腰に当てた。
それからの動きは瞬間だった。
僕はすぐにリーダー格の後ろに回って、左右から彼女の手を掴んだ2人が揃えていた両手に、手錠をかけたんだよ。
多分、何が起こったのか理解できなかったんだろうな——彼女は、前から押されてそのまま地面に仰向けになった。
そのとき、僕ははっきりと見たよ——彼女の恐怖の表情を。顔がますます可愛くなったのを。
ふと周りを見ると、他の男子も妙な笑みを顔に浮かばせ、眼には妖しい光が灯っているのが分かった。
彼女は可愛い顔をしていた。
そして——それを一気に壊したい衝動に駆られたんだ。
それから数分、もしくは数十分、ひょっとしたら数時間、彼女の悲鳴と喘ぎ声が続いた。
森に再び静寂が戻ったとき、彼女は全身から汗を発し、呼吸はすっごく乱れてたみたい。
それでも、すごく可愛かったよ。
僕たちは、彼女に聞いた。
「僕たちのこと、恨んでる?」
彼女はちょっと——多分精一杯なんだろうけど——睨んで、ゆっくりと頷いた。
僕たちも、みんなで顔を見合わせて頷いた。
「だったら良かった」
彼女は、不審そうに少し眉を上げた。
「"怪談"を証明するって言っただろ?だから証明できるから良かったって」
彼女の表情は変わらない。
「幽霊はね、美女が強い恨みをもって死んだときになるものなんだって。
だからね、今の君には幽霊になれる可能性がすっごく高いんだよ。
君が幽霊になる、これ以上の証明はないでしょ?」
その言葉を聞くや否や、彼女は身をよじって逃げ出そうとしたんだ。
まぁ当然のことながら無駄なことで、僕たちはすぐに押さえつけて、タオルで口を塞いだ。
そして、もがいている彼女の首を、もう一つのタオルでゆっくりと絞めていった。
もがきが大きくなって、身体が痙攣して……3分も経つとまったく動かなくなった。
でも僕たちは、彼女が幽霊になる"手助け"の為に、ゆっくりと30分くらいの時間を費やして絞めてあげたよ。
彼女の幽霊が身体に戻ることも考慮して、身体は人目につかない叢に隠してあげた。
そして10日後の今日。
未だに彼女の幽霊を視たっていう噂は聞いてないんだ。
残念ながら幽霊になれなかったのかもしれないし、大人達の言うように行方不明になったのかもしれない。
とにかく彼女は、身体も幽霊も学校に来ないから、"怪談"にリアルさは増した。
今では、クラス……いや、学校中みんなが"怪談"の存在を信じている。
みんながその話題で盛り上がっている。
僕たちのクラスは仲がいい。
喧嘩とかいじめとか、そういったものが一切ない、5年2組は平和だ。
みんながそう思ってる。
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