数年前の冬、有給をとって一人で旅行に行った時の話。
とにかく費用を安く済ませたかった俺は目的地(温泉)の周辺
で一番安い宿を予約した。
まあ本当に値段相応、オンボロという言葉が見事に当てはまる、山奥の寂
れた旅館。
野宿よりはマシかと自分に言い聞かせ、食事と風呂を済ませるとすぐに
眠ってしまった。
夜中にトイレに行きたくなって目が覚めた。
ただでさえ糞寒い時期に加え、隙間風で腹を冷やしたらしい。
そういえばトイレの場所を知らなかった…とりあえず廊下にでて探してみ
る。
電球が消えかけた薄暗い廊下は何とも薄気味が悪い。歩く度にギシギシと
床が軋む。
突き当たりまで歩くと木製のドアがあった。開けてみる。良かった、トイ
レだ。
昔ながらのボットン式。案の定というべきか、電球が切れている。
いくらボロでも、それぐらいちゃんとしておけよ…と心でぼやくが、仕方
が無い。
ドア上部の隙間から僅かに入り込む廊下の明かりを頼りに、はまらないよ
う慎重に屈みこんだ。
しばらくすると、「コンコン」とノックの音が聞こえた。
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