それは何処かの誰かのお伽噺。
飛行機発明といえばライト兄弟だが、彼ら以前にも飛行機械を研究した人間は少なくない。
特にドイツのシェーヴェル博士が試作した飛行機械は数秒間だが確かに「浮いた」らしい。
しかし奇妙なことに、ライト兄弟の成功が知られるやそれらの試作品はまったく飛びも浮きもしなくなった。
その後の航空力学からすれば冗談のような失敗作とされたシェーヴェル博士らの試作飛行機械。
現在残されたスケッチによれば、翼がなく、円形だったという。
それは何処かの誰かのお伽噺。
現存するわが国最古の文献には、雲間に浮かぶ城と街、そしてそこに住む人々についての詳細な記述がある。
しかも、同様の記録は欧州、中東、果ては南米にも史実として刻まれているのだ。
ただし、これら「空の国」についての各地の記録は、西暦1400年頃を境にぷっつりと途絶える。
この時期に何があったか、知る者はいない。
尚、この「空の住人」については「地上に降りてきたとき、常に霧がかかった」と記されている。
それは何処かの誰かのお伽噺。
WW�の最中に雲の中から現れドイツ軍を駆逐した「モンスの天使」の伝説は広く知られているが、同様の事象がベトナム戦争中にも起こっていたことを知る者は少ない。
それは湿地帯の底から現れ、北ベトコン兵に包囲された米兵を助けたという。
目撃者の元米兵は、「助けてくれたのはありがたいけどさ——」と言葉少なに語る。
「全身真っ黒の毛むくじゃらで、ベトコンを食い殺しながら笑っていたんだぜ?」
米国大統領は就任時に聖書に手を置き宣誓する。しかし実際の彼らは何に守護されているのか?
それは何処かの誰かのお伽噺。
旧約聖書に記されたバベルの塔の一節によると、神はそれまで人類で使われていた単一の言語をばらばらに乱し、意思疎通を困難にさせたという。
1960年代、この伝承を信じたとある言語学者が各地の単語・文法を解析し、その起源をたどって失われた「単一の言語」を復元しようと試みた。
彼は数年後に病で急死するが、残された資料に記された「言語」は猿の鳴き声にそっくりの、意味不明な発音の羅列であったという。
それは何処かの誰かのお伽噺。
世間にオーパーツとして知られる代物の大多数は、単なる学者の誤解・悪戯だったと判明している。
しかし、中には「本物」が見つかることも少なくない。
中欧の7000年前の遺跡から発見された金属のプレートも、その一つだ。
アルミを含む合金製と推測されるそのプレートには、英語に酷似した文字でこう刻まれていた。
「ここまで逃げても、奴らはまだ追ってくる……」
プレートの主は何処から来て、何から逃げていたのだろう?
それは何処かの誰かのお伽噺。
明治中頃の日本に、宮澤誠治という変わった絵ばかりを描く画家がいた。彼の絵は痩せ細った人間だったり白骨の山だったりと気味の悪いものばかりで、まったく売れることはなかった。
やがて大正二年、一枚の絵を描き上げた翌日、彼は焼身自殺を遂げる。
遺された絵には廃墟じみた建物が描かれ、焼け焦げた死体が積み重なっていた。
昭和の終り頃、彼の子孫の手によりこの絵が美術展に出品された。
一目見て審査員はいった——「原爆ドームの絵ですね」と。
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