俺は、人間に滅びをもたらす神に使える天使だと本気で思ってた頃があった。
人に滅びをもたらすために人を監視しているが、その天使は人を愛しているという設定だったらしい。
休憩時間、女が髪を手ぐしで整えるように、俺は背中にある「何か」を手ぐしで優しく整える仕草をしていた。
天使が優雅に動くのは当たり前の話で、手の指先までしなやかに動かしていた。
クラスの女子が、『○○君。何してるの?』と俺に聞いた。
俺は、『・・ん?ああ、僕の翼が・・・・・あ、いや、なんでもない』とつぶやいた。
その直後、俺は『・・ふ・・神と人間の狭間(はざま)に居る者の身にもなってくれよ・・』と微笑みながら言った。
死にたい。マジ死にたい。
優雅に動けることをアピールするために、教室の中でわざと無意味な方向に歩き、その後優雅にターン。
ターンするときは、首を少し斜めに傾け、目は細く虚ろに、手は指先までしなやかに、腕は体に巻きつけるように。
しなやかな動きをクラス中に見せ付けるため、俺は目的も無いくせにクラスの中を歩き回ってはターン。
そのとき、クラスの女子が『ねえ。さっきからウロウロして何してんの?』と聞いてきた。ここで止めておけば良かった。
俺は、待ってました!とばかりに、女子が居る方向とは少し違う方向を向いて驚いたように言った。
『・・・はッ!おまえは・・・。ちょ・・っと待て。ここではまずい。人に粛清を下すのにはまだ時間が必要なはずッ・・だが』
『もう、彼は動き出したというのか・・?』と、誰も居ない空中に向かってつぶやいた。
声は相手に聞こえるくらいの大きさで。
目を大きく見開き、口をガクガクさせ、『あ・・あ・・・・』と動揺したように言った。
そして、ようやく女子に気が付いたように、
『はッ!あ、ご、ごめん。ちょっと天界からの・・・あ、いや、なんでもない・・』と言った。死ね俺。
女子は黙ってたような気がする。それを見て、さらに俺は自分に酔って、『翼が痛むよ・・』
などとほざいて、また優雅にターンを決めて、片方の胸を押さえて息苦しそうに、
そして目をゆがめながら廊下へ出て行った。こういう類のことを数十回はやった。
誰か、俺を殺せ。
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