女は空をながめていた。青く、澄み切った晴天がまぶしい。
喧騒に包まれたこの世界に、わずかばかりの風が流れていた。少女はいま、全身でそのやわらかな風を感じている。
誰かが少女を指さして笑った。少女は何も答えなかった。
また別の誰かが、少女の父親を悪し様に罵った。父のせいではない、戦いの時代が悪いのだ。少女はそう思うように努めた。
ある人は少女のことを哀れだといった。そう思うのなら、私を見ないでほしいと少女は思った。
巨大な獣が現れた。黒い塊のようなそいつは、少女を取り囲む。その八つの目を見ることは、少女には出来ない。
少女は空をながめていた。青い、ひたすら青い空しか見えなかった。
ふいに少女は叫んだ。
「約束を破ったのは、わたしじゃない」
そんなことは誰でも知っている。
「あの頃に戻りたい」
それは叶わぬ願いだった。少女はさらに叫んだ。
「わたしを見ないで」
恥ずかしさのあまり、少女は顔をそむけた。
時が流れた。陽は傾き、人々のざわめきはどんどん大きくなってゆく。
枯れていたはずの涙が溢れた。少女は裸のまま泣き続ける。
少女は両手を広げた。何もつかめなかったこの手に、いま別れを告げる。
やがて少女の足が宙に舞い、内に秘めていたものを露わにしてしまう。少女はいろんな所で人々から見上げられる。
定めという呪縛から解放されるのは、その後のことだった。
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