とても暑い日だった。男は近くの湖に飛び込みたくなった。
水着は持って来ていないが、周囲に人はいない。男は服を脱ぐと、水に入った。冷たい水の中で泳ぐのはとても気持ちよい。
老婦人が2人、岸辺をこちらにやってきた。
男は慌てて水から上がると、砂浜に落ちていたバケツをつかんだ。
バケツで体の前を隠すと、やれやれとため息をついた。
老婦人たちは近くまで来ると、男をジロジロと見た。
男はきまり悪く、その場から消えてしまいたかった。
老婦人のひとりが言った。
「ねえあなた、わたし、人の心を読むことができるのよ」
「まさか」
困惑した男が答えた。
「本当にぼくの考えていることが分かるんですか?」
「ええ」と老婦人。
「あなた、持っていらっしゃるそのバケツに底があると思っているわ」
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