ありがたくない先住者がいた。

2010年5月16日日曜日 ·

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引っ越した先のぼろアパートには、ありがたくない先住者がいた。
戦災をのがれて生き残ったという、古き昭和の面影を残すこの建物にじつにぴったりな、
うらさびしいその存在。

荷物をはこびこむとき、そいつは部屋のすみに座ってうつむいていた。
かべのほうを向いて。まるで無言の抵抗をこころみるように。

こころのなかで、
「ごめんよ。君はもうこの世界の住人じゃないんだよ」
と、手をあわせながら作業をすすめた。

帰るといつもそいつは部屋にいた。かべのほうを向いて、かなしそうにしていた。
寝るときもそいつは部屋のすみっこにいて、べつになにか悪さをするわけでもなかった。
もしかしたら、部屋にいくらか残ったままだった、
そいつのものと思われる遺留品が心残りで、成仏できないのかもしれない。
残念だが、捨てさせてもらったよ。ちゃんとお寺で供養までしたんだよ。
しかし、そいつはくぐもった声で、
「ここはおれの部屋だ」
とくりかえし言うだけ。

「君はここにいちゃいけないんだ。君の帰るべき家は、」
と説いて、窓の外、空の向こうを指差すと、そいつは肩をゆらして泣きじゃくった。

そのとき、ハッとこころあたりがして、
引き戸をあけて廊下へとびだし、すすけた部屋番号の木札を見た。

部屋をまちがえてた。

ゴメン。ほんとにゴメン。なんてあやまったらいいのか。
すてちゃったよ、君のもの。どうしよう。


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