かくれんぼ

2010年3月17日水曜日 ·

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新宿から 急行・各停と電車を乗り継いで 1時間弱にある、多摩丘陵のベットタウン
………私が、小学校4年の夏まで住んでいた町だ


特筆すべき所の何も無い駅前を抜け
静かな住宅街を15分程歩くと、小さな丘の頂上に、打ち棄てられたマンションがある


バブル崩壊の煽りを受けて、建築途中で破棄されたその建物は
小学生当時の私達にとって、絶好の遊び場だった



そして


私にとって、忘れる事の出来ない
忌まわしい場所だ





“かくれんぼ”





『ここ……か、確かにコレは噂にもなるな…』

完全に廃墟と化したマンションを見上げながら、彼氏が呟く

『どうする……?
やっぱりヤメとくか??』

『………行く…、行かなきゃ』

私は彼の手を握り、建物に入った




14年前の夏………
私達はここで、かくれんぼをして遊んでいた

大人達は皆 「危ないから入らないように」 と、言っていたが
まだ子供だった私達は、毎日のように忍び込んでは、日が暮れるまで遊んでいた



そして あの日………


かくれんぼの鬼をしていた幼な馴染みが、変質者にレイプされ………殺された


小さな住宅街は騒然となり、私と家族は逃げるように町を離れた



それが、ようやく忘れようとしていた今になって訪れたのは理由がある

彼がmixiの恐怖系コミュにある
「心霊スポットについてのトピ」
で、ある噂を見つけたのだ


殺された女の子………私の幼な馴染みの亡霊が出ている……と


事件後 すぐに町を離れた私は、あの日以来 この町には来ていなかった
だからこそ 噂を聞いた今、いてもたってもいられなくなったのだ




昼でも薄暗く 静かな屋内に、足音だけを響かせながら
私達は、彼女の遺体が見つかった 6階の角部屋にたどり着いた



扉を開けると
中からひんやりと 冷たい空気が流れ出て来る

僅かに差し込む陽の光が、荒れ果てた室内を浮かびあがらせる


『こんな…所で………!』


私は涙が溢れて止まらなかった

『ごめんなさい……!
ごめんなさい…ごめ……』

泣き崩れる私の涙を、彼が優しく拭う

『……君が謝る事ないよ、悪いのは犯人だって…』
『……違うの!……私が言ったの!!』

『え……?』

『ちょっとした意地悪のつもりで……私が…私が皆に…彼女を置いて先に帰ろ……って言ったから!!
だから…だから……残されたあの子は…!!』


『………誰だって一度はやる悪戯さ!
…やっぱり悪いのは犯人だよ』

そう言うと、彼は私を抱き寄せ頭を撫でる








そのまま 何分泣いただろうか

ようやく落ち着いた私は、微かに聞こえてくるものに気がついた




((………ぅ………い……ぃ……))




『……何…?』

『……?
どうかした?』

『今……何か聞こえなかった!?』
『いや…何も聞こえなかったけど……?』


…空耳?

いや!違う!!


私は部屋を出て、廊下に飛び出す

『……何も聞こえなぃだろ?』

後をついてきた彼氏がそう言った

その時だった





((もぅ………いぃ…か……い………?))





私の背筋を
冷たいものが貫いた


『ねぇ………い 今……聞こえ…た、よね…??』

私が不安そうに尋ねると
彼は必死に明るく装いながら、私の肩に手をまわした

『ネットを見て来た奴らのイタズラだよ!
悪趣味だよな、ふざけやがって!』



((もぅ………ぃぃ……かぃ…?))



『いやぁッッ!??』
『ヤメろよ!しつこいぞ!!
いい加減にしろよ!!?』

怒鳴る彼が、近くに立て掛けられたままの建築資材を蹴り飛ばす!

資材はエレベーターにぶつかると、10数年分の砂塵を巻き上げながら床に落ちた


すると………




ポ---……ン




『え………?


……どう…して??』

『そんな……嘘だろ??』



資材がぶつかった拍子に

エ レ ベ ー タ の 表 示 ラ ン プ が 光 っ た の だ



『なんでだよ……!!
電気なんか通って無いだろ!??』



もちろんそのはずだ
が、しかし、実際にエレベータは1階…、2階…、と、昇ってきている



『やだ……!!逃げよう!?』

私は彼の手を引き、階段に向かって走り出した




階段を駆け降り、踊り場を曲がろうとしたその瞬間
視界が真っ白に遮られた


『っ!??…………な…何??コレっ!?』
『大丈夫か!??』

『やだ!何コレ!!?
………え?コレ…もしかして…精……??』


色・匂い・触感、ドレをとっても間違い無い
私の顔にかけられた液体は「あれ」だ


『ふざけるなッッ!!!
出て来いよ!?悪戯にも限度があるだろうがッ!!?』

顔を拭って彼を見ると、見たことも無いような形相で周囲に怒鳴り散らしている


『大丈夫!私なら大丈夫だからっ!ね?早く出よ!?』




((もぅ…いぃ…… かい?))




『『!!!』』

冷静になりかけた彼は、再度逆上すると
縋り付く私を振りほどき、落ちていた角材を手に取った

『いい加減にしろッッ!!?
絶ッ対ェ許さねぇからなッ!??』
『ヤメて!私 大丈夫だから!落ち着いて!?』



((もう…いい…かい?))



『出て来いよ!!ブッ殺してやるッッ!!!』
『お願いやめて!!?

((もう いいかい…?))

も う い い よ!!!!
早く出よう!?』















ドサッ………





私の背後に



何かが落ちる音がした





さらにその奥から



エレベーターの扉が開く音がする





ずっ…ずズズっ……


ズルズルズルッ………





“何か”が

引きずるような音をたてながら


私に近付いて来ている





角材を振り上げていた彼が


動きを止め


みるみる青ざめていく





“何か”は

全身から汗が吹き出し

まるで金縛りにでもあったかのような私の背後まで来ると






耳元で


嬉しそうに 囁いた










『見ぃ…つけ…た………』




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