妻が、わたしを見つめている。
わたしの胸に、妻と暮らした数十年の年月が去来する。
妻の命が消えようとするこのときを、わたしは心に刻みつけようと思っ
た。
妻はたどたどしい言葉で、自分がいかに至らない妻であったかを述べ始め
た。
気が強かった妻が、このようなしおらしい言葉を口にするものなのか。
わたしの心の中に、言葉で言い表しようのない感情が溢れてくる。
妻は、涙を流しているようだった。
この期に及んで、妻の悔悟の言葉を聞きたくはなかった。
「もういいんだよ」
わたしはそういうと、手に力を込めた。
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