ぶぶ漬け

2010年1月15日金曜日 ·

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京都に古くから伝わる独特の作法…"ぶぶ漬け食べなはれ"。
これは長居している客を帰らせたい時に、
「ぶぶ漬けいかがどすか?」と問いかけ、婉曲に帰りを促
す技である。
"ぶぶ漬け"とは、"お茶漬け"のことだけど、
どんなに客が待ってもぶぶ漬けが出てくることはない。
これを間に受けて大人しくまっているヤツは「無粋な人どす
なぁ」と陰でバカにされてしまうという話なのだ。
しかし、こんなことを言われれば意地でも反抗したいのが人情って
もの。
「ぶぶ漬けでも食べていきなはれ」と言われたら、ハキハキと
「大盛りでお願いします!」とか
「しじみのミソ汁もいいですか?」ぐらいは自然に口をつ
くだろう。
だが、そんなチマチマとした受け身な姿勢でよいのだろうか?!
やはり攻撃こそ最大の防御なり!
京都のお宅を訪問するからには、自ら"ぶぶ漬け"を忍
ばせて訪問するぐらいの備えと心構えが必要である。
そして敢えて長居を決め込み、「ぶぶ漬けでも食べていきなはれ」
と言われたら、「いえ、手持ちのものがありますから」と
その場でオカ持ちから"ぶぶ漬け"を取り出してムシャ
ムシャと食べ始める。もちろん、それだけじゃ許さない!!
逆に「ぶぶ漬けいかがどす?」と、こちらから茶碗を
差し出してやるのだ! "必殺ぶぶ漬け返し"!
京の伝統に従って、ぶぶ漬けをすすめられた者はその場を立ち去ら
ねばならない。
相手は自分の家であるにも関わらず、荷物をまとめてその家を出て
行くことになるわけだ。
途方にくれた相手がとりあえずホテルで一泊を過ごそうとしても、
先回りしてホテルの前に"ぶぶ漬け"を置いておく。
ドラキュラが十字架を恐れるように、京都人は"ぶぶ漬
け"を越えることができない。
仕上げはここからだ。途方に暮れる相手の前にタイミングよく現
れて仲直りを持ちかけて温泉へと誘いだす。
そして相手がリラックスして湯につかっているところに、ご飯とお
茶っ葉をぶち入れて叫ぶのだ! 「どうだー! おま
えが、ぶぶ漬けだー!!!」
だが一度噴火した怒りの火山は相手を退治したぐらいでは納まらない!
今度は、"ぶぶ漬け"宅配業者となって京の都を恐怖に陥れ
てやる! まず手近なラーメン屋に忍び込み、
かかってきた注文の電話を何食わぬ顔でとる。
そしてラーメンの出前を頼んだ気になって油断している客の家に、
いきなり"ぶぶ漬け"を届けてやるのだ!
宅:「お待たせしました。来来軒でーす!」 
子:「わーい、らーめんらーめん!」
宅:「おい、ぼうず。これはな…ぶぶ漬け
だーー!!!!」 子:「ぎゃーー!」
一家で出前ラーメンを食べるはずの楽しい夕べは、"ぶぶ漬
け"によって家を追い立てられる悲劇の時間に変わるのだ!!
京都人である以上、この不文律を破ることは許されない。京の
都は家を失った人であふれかえる。子供達は全員トラウマだ。
更に今度は市の職員を装い、家から追い出され腹を空かせた人々の
前に現れて食料配給を行うのである。
もちろん、配給する食糧は"ぶぶ漬け"に決まってい
る。そして集まってきた人々に茶碗を差し出しながらこうささやく
のだ…。
「ぶぶ漬け食べますか? 京都人やめますか?」


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