小学生の頃、こっくりさんが流行っていた。
俺も放課後に友達数人とやることになった。
こっくりさんが帰ってくれないという内容のホラー漫画を思い出し不安があったのだが、友達の前でそんなことは言いだせなかった。
放課後の教室に異様に強い西日がさしこんでいた。
教室には俺と友人二人しかいない。嬉々として準備する友人二人の声がどこか遠くに聞こえた。
机の上の真っ白な紙に俺が文字を書いていく。妙に喉が乾いたが、水筒は空だった。
最後に紙の中心に鳥居を書き終えると、友人Aが十円をそこに置いた。
三人の指が十円の上に置かれる。緊張した声でAが言った。
「こっくりさん こっくりさん でてきてください」
二人もこの時は真剣な表情だった。一呼吸後に、今度は三人で同じ言葉を言った。
静か過ぎて耳が痛い。ふとそんなことを思った瞬間、十円がすごい勢いで動きだした。
「はい」
興奮する友人たちが質問を矢継ぎ早に繰り出した。
「○○ちゃんは〜〜が好き」
「明日は雨」
くだらない質問の度に十円は「はい」だの「YES」だのに動く。
どのくらい質問を繰り返したろう。やがて夕日が沈みかかり、僕らは帰る時間になった。
嫌な汗がじっとりと額に浮かんできた。
「こっくりさんお帰りください」
Aが言うと十円はこれまでにない勢いで紙の上を動き回った。誰かのいたずらとは思えない勢いだ。
やがて十円は「はい」の反対側にとまる。「YES」だ。
僕らはホッとして、帰る準備を始めた。
僕は紙に「はい」と「YES」しか書かなかったのだ。
誰も触ってない十円がとぼとぼと鳥居に向かう姿を僕は今でも思い出す。
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